f植物園の巣穴 f植物園の巣穴/梨木香歩 朝日新聞出版
タイトルと文体で即座に購入を決めた小説。作家はかの有名な『西の魔女が死んだ』の梨木香歩。といってもこの本を買ったときは新人作家かと思っていたが。
植物園に勤める男が、ふとあるときから非現実の世界に迷いこみ、様々な生き物に化けた自分の過去と出会っていく、という話。妻の詳細、世話になった人の死など過去の悪いことが記憶からなくなっていた男は、その分身体的な年齢よりも未熟だったに違いない。それはそっちの世界から帰って来たときの会話を読めば一目瞭然。
妻を失っていた男は植物園で働くということにかなりの精神を使っていた。それは植物という次から次へと成長し、増殖するが一つひとつに表情はある、という大きなサイクルをもつ「生命」に対する執着心が心のどこかにあったからではないかと思う。