・「資本主義に歴史を接続する」、そしてどうアプローチするのか?

「歴史を資本主義に接続する」ことは可能なのか。これは自分が建築を学びだしてから、自分の価値観との葛藤を行いながら考えてきたことの一つだ。なぜ、都市には歴史がないのか、そしてそれが当たり前になっているのか。大学院で歴史を学び、土地活用の会社でも働いている。そこにあるのは、様々な次元にある都市、土地の葛藤であった。

高度成長以来、効率の源泉、そしてパフォーマンスの舞台になっているのが都市であって、過去の産物である歴史的建造物はサンクチュアリ化されるか、もしくは模倣され外壁のデザインのみ残されるだけのアリバイ工作のようなことが行われてきただけだった。
しかし、数年前から、ドイツなどの実践が評価され、各地でリノベーションやコンバージョンの事例が出てきている。土地に歴史があるように、建築にも歴史がある。土地の歴史を残すのは建築であり、そこには社会の映し鑑であるかの如く積層した意味がある。そこに連続した現在を作り出すために、建築は存在していると言っても過言ではない。
明治維新の時代においても、西洋から様々な文化を輸入した当時、日本人の念頭にあったのは「ここから日本の文化が始まる」、以前の歴史は意味がないといったことだった。明治初期に来日したドイツ人医学者ベルツは日本人の知識人が日本固有の文化を軽視していることを批判するほど、日本人の価値観にはアイデンティティを喪失「したような」事実がある。
それが経済成長、グローバリズムと相まって、アリバイ工作のされる都市ができあがる。

しかしこれからの低成長、価値観のダイバーシティを鑑みると様々な価値観を許容してきた歴史自体が「ブランド」となることも出てくるはずだ。

このことを直接的に受け止め、都市のプレイヤーとして働くのであれば、2つの選択肢がある。
一つのラインは地主、コンサルタント、建設会社のライン。郊外に多いであろうと考えられるが、代々地主が守ってきた土地に対して、経済効率、税制を含めた個人的コンサルティングによって土地、建築に関わる。もう1つは都市においての地主、つまり不動産デベロッパー。自らを経済、金融の中に組み込み、再開発と呼ばれる行為を際限なく繰り返す。目の前の収益に対して最大限の利益を得るために、最大有効な効率を重視する。

このアプローチは最も効果的である。その土地を動かそうとする人になる、若しくは直接的に関与できるからである。ここで必要なのは、世で言う「営業」である。営業は、人のプロでありコミュニケーションのプロである。人の不動産に対する本心、本音、真実を知る事ができることが必要である。
そしてその結果が、金融、経済として表面化する。営業の面白さは、成約に至るまでのかけひきなどシナリオの構築とその実践である。それはそれで、人生を賭ける意味がある。

しかし、自分の興味と以上のことを含めて考えると、自分にとってはもっと直接的に不動産自体にアプローチを考えたい。活用のためでも、売買のためでもない価値を考える事。それは社会の中ではかなり絞られた分野であることは間違いない。社会情勢、経済状況、全てが関係のあることであるから、高度である事も絶対的である。そして、それを可能にするのは不動産鑑定士しかない。
その不動産鑑定も、定量的な鑑定だけではなく、これからは(該当する建築であれば)歴史的意義なども含めた定性的な事象を客観的に判断する必要もあるだろう。その必要性も含めた、都市構築の最初で最大の「鑑定」という事業に関わることを目標としたい。

この目標を達成するためには、現段階では2つのアプローチをかけなければならないと考えている。一つはもちろん、資格の取得。不動産鑑定士は不動産類の資格の中では最も難関で、税理士などと同等の難易度であると言われている。これは少し先の話になるかもしれない。
もう1つは、雇用市場でのプレゼンスの強化。今の仕事の実績はもちろん、それを体系化する資格の取得を目指す。表層を動かす事ができるようになることは単に鑑定士資格取得だけでなく、それ以後の仕事に必ず影響がある。