グラン・トリノ
チェンジリング」から間もなく公開された、クリント・イーストウッドの最新作。
朝鮮戦争の記憶に絡めとられたまま人生をすごすウォルト。映画は彼の妻の葬儀から始まる。チャラチャラした恰好の孫と理解し合えない息子に苦悩を感じながらも日々をすごしている。
ウォルトはアジア系の移民であふれつつある郊外の住宅地に住む。隣に住む家族の息子、タオがギャングに命令されてウォルトのグラン・トリノを盗もうとしたところから2人の人生は交錯し出す。それから隣の家族とも理解が進み、礼を重んじる伝統的な文化に戸惑いながらも隣人の少年タオと時間をともにすることで心の豊かさがウォルトの心に芽生えていく。「俺はいい人間ではない」。他人に心を許しはじめつつも、自分を許そうとはしない。一方のタオもウォルトと出会うことで塞ぐぎがちだった人生を自ら開いていく。

過去に固執し、尊厳を守り続けながらウォルトは生きる。自分の過去にいまを縛りつけて、救いを求めることを拒み続ける。しかしこの物語はいわゆる頑固ジジイのヒューマンストーリーではない。ウォルトは最後に懺悔することで救いを得るが、それは自分のためではなく妻のためであり、タオやその家族を守るためだった。暴行を受けたタオの姉の報復のために、命を掲げる、人の根源にある最も美しい心を描いた作品である。「チェンジリング」とともに、人の「こころ」を描く。