文化表現におけるイノベーション:『ビフォア・サンセット
Shakespeare and companyという名前のヘミングウェイや「ユリシーズ」のベケットが周囲に集まっている東京でいう人形街のようなところから始まるこの物語は劇中の物理的距離やストーリーにおいてはリアリティとして整合性のないファンタジーである。
劇中ではパリには残る水上の川に向かうファサードや道のファサードを見せることを主題においてはいるが街のリアルだけでは映画のリアルは撮ることができない。では映画としてリアルに映るのはなぜであろうか。それは街=背景のリアルと、もう一つ必要になってくる登場人物、すなわち衣食住のリアルである。それは服装やタブレなど食事から窺えるパリの季節感、環境保護団体で働く彼女のアパートのインテリアにおけるエスニックなデザイン、パリならどこにでもあるカフェのpure cafeやアパート全体のリアリティとなって映画に一層のリアリティを与える。このように監督は徹底したロケハンで映画としてのリアリティを生み出す。
ストーリーとしての会話やシークエンスにおける風景の連続はファンタジーとして受け取られる可能性もあるが、このように「パリのリアル」を打ち出すことで映画としてのリアルを獲得している。