アネット・メサジェ展 @森美術館
フランスのアーティスト、アネット・メサジェ。1943年生まれで20代の頃に写真コンテストで受賞、南欧、日本、インドなど異文化に触れる機会を得ている。パリで起こった五月革命にも接触しているアーティストだ。
収集癖があるという彼女は、ぬいぐるみなど、彼女自身または誰かの署名、つまり所有者の存在がどこか感じられる断片を用いて場、作品を作る。その私的ながらくたともいうべき断片の集合体からはじわじわとくる恐怖すら感じられた。
ぬいぐるみには、なつかしさや何か込められたものがあり、そこからくる恐怖に似た感覚が、展覧会全体を覆っている。「つながったりわかれたり」などで使われているぎこちない機会仕掛けの展示は、宗教、悪魔的で、その恐怖を一層大きくする。この作品はヨーロッパでの狂牛病発生の機に製作された。日常的な素材であるからこそ伝わってくる恐怖がある。
彼女の作品群には、日常のおかしなところが露になっている。「寄宿舎たち―休息」では、一瞬見間違えるほど精巧な鳥の剥製が使用されている。人間の「飼う」という愛護と自然に対する独占欲のようなものが同時に存在し、巷で賑わっていた動物の整形や生態系的に必要なはずの毛を切ってしまったり体温管理装置でもある体に布を覆ってしまうなど人間のエゴの部分も表現されている。
この展覧会会場では様々な事が起こっている。「私のトロフィー」では歴史の断片や部分にされてしまったそれぞれの物語が、自分を不気味に暗示させる。さらにセーターの毛糸がほどかれている作品からは独自にもつ過去を暴露する自ら自分を暴くような別の意味での恐怖がさらけ出されているように感じる。最後のコラージュでできた「キマイラ」は、その恐怖と現実の狭間を表現した、世界の往来が感じられた。