耳をすませば [DVD] 耳をすませば
戦後,高度成長とともに住宅供給のための典型的なニュータウンに育った少女の物語.団地に住む典型的な核家族であるが,街のアイデンティティの乏しさと同期しているのか,物語の世界に没頭している.仲間内に作詞した詞のニヒルなバージョンである「コンクリートロード どこまでも 森を切り 谷を埋め West東京 Mt.多摩 ふるさとは コンクリートロード」という詞には,心のどこかに隙間があるような感覚がみえる.しかし,恋をすることによって自分はどうしたらよいかわからなくなり,「あいつがやるなら私もやってみる」と自分に故郷のようなものがなく,土台がないことをバネに動き出すことで次がみえる,アイデンティティの模索の一歩を描いた作品である.
「ここらへんが舞台になってるらしいよ」とTに言われたのは今日のことだ.おぼろげな記憶のなかに主人公が坂を上がっているシーンがあり,論文の疲れもあってかまっさきにみたい,と思った.しかし,見てみると走っているのは明らかに京王線だし,前述のストーリーのニュータウンには横浜国大周辺は該当しない.「地球屋の前の円形の道路もある」とかなんとか言っていたが,そんなものは東大の駒場キャンパスにもある.調べてみると実際は多摩ニュータウン付近であることが判明したが,「映画の中のシーンを歩いてみたい」という欲求は物理的距離に抹消された.