建文主催藤森照信の講演会。
タンポポハウスや高過庵など自然素材を使った建築を次々に発表する藤森だが、ただ変わったものを創るという意味で現代的な素材であるコンクリートやスチールを表現として使わないだけではなくその心中には環境と建築の調和という関係性の探究が根源的に存在することを感じた。
講演最初で見せたスライドは自身の作品ではなく、好みである建築2点。一つはポルトガルとスペインの国境近くにある岩をそのまま住宅にしたような建築の写真。もう一つは鳥取県投入堂。前者は荒野のような場所に存在し、空と建築と大地の見事な調和した写真だった。岩のようなプリミティブな形状と環境が一つのピクチュアレスクな風景を作り出している。後者には自身もコメントしていたように岩壁と束と床の関係が見事である。優美な曲線の屋根は平安時代の特徴であるらしい。日本建築史家である一面も垣間見る。


次に見るスライドから作品に移る。出身である長野の史料館、高過庵や熊本の学校宿舎や温泉施設など、どれも現代都市の中で見られる表情ではない。特に史料館の外壁の一部で使用されている板は板引きという技術が必要で、もう職人もおらず唯一一人だけいる80か90の職人に施工してもらったという。また、そのような歴史的な技術や素材から得られる建築には説得力があるのか、老人には藤森の建築は古風に見えるらしい。
しかし、熊本の学校宿舎のようなトップライトとその空間に貫入するプリミティブでランダムなテクスチャーをもった柱、史料館の傾斜した天井など、現代的なコンポジションと歴史的なマテリアルで、藤森建築の現代建築の位置づけにアイデンティファイされている。それに加え、いくつかの茶室の作品は人が大きく見えるくらい小さなスケールで子どもの秘密基地のような現代建築のダイナミズムとは少し違う方向性も醸し出している。


藤森の考える自然と建築の関係には現代の屋上庭園とは違う見方がある。自然の不確定さと建築の確信犯的形態の調和には美学的判断が必要で、植物が建築にビルトインしてしまうのではなく、建築の横にあればいいという。藤森が講演の後半で見せたスライドは茅葺き屋根の乗った民家の並ぶ集落だった。自然がそのまま建築になってしまったかのような古代の集落は、藤森が目指す自然と建築の調和そのものであった。