講義:文化表現におけるイノベーション

ニューヨークの恋人
シンデレラの現代版であるこの映画は非常階段の使われ方にしろソファをベランダに出してムーンリバーを毎日聴くということからしてファンタジーである。
映画における都市とは、ランドマークと人々が住む場所である。その場所から何が見えるか、空間と機能の対応関係から物語は構築される。ニューヨークでは空間と機能が一対一対応であるから、何か仕掛けを持ち込まないと物語は成立しないことになる。それが1867年という層の挿入と「ティファニーで朝食を」で使用され、2000年代のラブコメディには絶対と言っていいほど使われた Blake Edwards の「ムーンリバー」である。

この映画が封切りになった時、映画界でラブコメディというジャンルは忘れさられ、ハリウッドでは作られていない状況だった。それに加え、その観客動員数の少なさが時代における位置を物語っている。最終的に過去の勝利するこの映画は、忘れられたものが勝利する、映画界のレオポルドなのである。