新建築 カワイイ論争 途中経過まとめ
発端は、新建築2007年10月号の真壁智治氏のエッセイ、「カワイイ建築の地平」である。この中で真壁氏は女子大建築学科の学生と行ってきた「カワイイ」建築の形態的特徴の考察を発表している。そこから抽出された特徴はSANAAによる金沢21世紀美術館などの「スモール・スケール・センス(ちいさいこと)」、藤森照信による高過庵などの「へんてこりん」、西沢立衛による森山邸などの「ポコポコ感覚」、伊東豊雄によるMIKIMOTO Ginza 2などの「アンチモジュール」である。
この論では「カワイイ」が本能的批判であり、親しみを持て、安心感を抱けることとし、「カワイクナイ」建築、すなわち権威的なもの、横暴なもの、暴力的なものを批判する抑止力になるとしている。

さらに真壁は新建築2008年2月の同エッセイにおいて、原広司の月評に対応して「身体と建築」あるいは「身体言語と建築」という建築への新しいアプローチとして発展させる。
真壁は自身の学生時代、磯崎新設計の「大分図書館」、「岩田学園」を事前に十分学習しその「言葉と建築」と向き合う「大分巡礼」というイベントと現代の学生の建築の見方、アプローチの仕方を比較している。磯崎の建築へのアプローチが「作り手」として言説と建築を介したものであったのに対して、現代の学生が「言葉と建築」よりも自分がその中に主体的に入り込み、自分が楽しめるか、そして周りの人も楽しそうか、という「使い手」側の視点で建築にアプローチしている。この建築との接し方が「つくる論理」だけでなく「つくり手」と「使い手」の建築の共有を主にしており、建築の意味合い、定義が変化していることを指摘している。感覚の共有によって「言葉の媒介性」が無意味化し、「身体と建築」を支える新しい技術、新しいテクネを生み出す建築「ナイーブ・アーキテクチャー」が建築の今日的定義を反映しているとしている。