村野藤吾―建築とインテリア @松下電工 汐留ミュージアム
 関東だけでなく関西にも作品を残す村野藤吾については、「新建築問題」などの表象的な知識と、日生劇場の体験くらいしか知らない。その緻密で繊細なディテールのデザインについても、印象程度でしかなかったが、スタディのスケッチ、実物の家具などによりその印象は深まるばかりであった。特に、日本生命日比谷ビルについての記述の中で、手摺について「礼儀的に紳士が貴婦人に手を伸ばす」ようにという言葉は、氏のデザインの手法を一言で表したかのような爽快感があった。
 さらに氏は、経済に深く興味を持っており、経済に関するノートや読み込まれたテキストの展示もされていた。ちょうど活動時期がバブルなどとも重なっていた時代、建築は建物として際限なく建てられていた時代である。そこには今と同じで人間の入り込むすきはなく、経済の論理だけで都市、環境、建築は作られていった。そんな中で経済を熱心に学び、反人工ともいえる人に近い、ディテールにおける職人の高度な技術で空間を作った。その一見相反する建築家像には、「1%の村野」というある種自嘲的な表現で、経済に押しつぶされそうな中経済を学び空間と人を結ぼうとした村野の姿がある。