橋爪紳也氏。長年務めた大阪市立大学を退職し、大阪市長選立候補した建築史家だ。現在は大阪府立大学特別教授。肩書きはこれだけでなく、橋下府知事のアドバイザーとして大阪の文化戦略の一端を担う存在。その延長として水都大阪2009のプロデューサー、上海万博大阪出展プロデューサーでもある。講演の冒頭はこの上海万博についての映像から始まる。2010年に開催予定の万博のランドスケープのムービーで、アニメーションの発展をふんだんに取り入れた映像だった。年間70万人の集客を見込むイベントなだけあって広大な敷地に目新しそうな建築がならぶ。この映像は各国から送られてくるデータを元に製作されており、終了後はヴァーチャルの万博として保存される。

今回のテーマは「都市と文化」。
何気なく使われる「文明」と「文化」の違い分かりますか。
講義の初回で必ず学生に聞くというこの質問。今日の講演の根本的なテーマである。
万博の歴史を辿ると、19世紀は蒸気の時代、20世紀は電化、都市化の時代。そして21世紀は都市の時代。著書の「集客都市」で述べる都市の担い手の変化、つまり住民だけでなくビジターも一つの構成要素となり得るというのは都市の発展系モデルと大きく関係している。文明/civilizationと文化/cultureの違いは、ベクトルの違いにある。国を超える不変的なもの、つまり水平のベクトルと世代を超える固有性、垂直ベクトルである。この次元の異なるベクトルが都市の方向性、そして形態、システムを作る。それが世界都市と創造都市である。
大きく二つの都市がを挙げる。
一つはドバイ、もう一つがナント。言うまでもなく前者が水平ベクトルの世界都市、後者が垂直ベクトルの創造都市である。
ドバイは集客都市最初のモデルである。ヨーロッパ人の寒さを凌ぐための観光地というビジネスモデルをもったドバイは国籍保有者はわずか1〜2割に過ぎない。他は異国の人類であり、世界で一番のグローバルシティを目指す。王は、「時は限りがあり、夢は限りがない。だから私は急ぐのだ」といい、開発を急速に発展させる。
創造都市の例はナント。ナントでは60kmの河川全体を使っての大々的なアートイベントが催され、歴史的建造物の利用が盛んである。
ヨーロッパなどの歴史的都市はこの創造都市に含まれる。大阪市立大学の佐々木雅幸氏の創造都市の定義のキーワードは、脱大量生産、創造的問題解決、そして都市の中にその創造の場があることである。

話はアジアに移り、東京、日本に近づく。ここ数年で上海、香港に金融中心として東京は抜かれ、そしてクリエイティブ都市としても遅れをとっている、と氏は言う。東アジアのクリエイティブ競争は国家による戦略があるかないかの違いでここまでの差がついた。上海は政府が10年でアジアのデザインハブになることを明言しており、アニメ産業を政策として打ち出している。これは、市民の中からボトムアップで出て来たものをキャッチアップできるという事である。さらに、都市のリノベーション、つまりハードの不変、ソフトの可変を決定している。これは何も決定していない日本、解体/保存にとらわれている現状に対する批判でもある。そして、この点での大きな違いは、文化と産業が繋がっているか否かに尽きる。ここをつなげている上海は、大きく発展している。

最後に、東京は世界都市かつ創造都市群であるという結論とともに国家の視点でなく都市の視点、都市間つまりアジアの中での都市という視点が必要だと強調する。

21世紀は都市の時代である。各都市が差異化し、競い合う。そこでは、製造業という文化が必要になり、ブランディングで一点突破、全面展開することで道は開けていくだろう。日本はその中でも人口爆発少子高齢化を経験する世界的な先行都市を含有する。
ここが、今回の講演の収束点だろう。大阪で生まれ育った氏、その大阪における製造業という文化は既に根付き、発展を待っているのだろうか。文化事業に関心のある橋下府知事の元、都市のブランディングに今後の期待が高まる。

国家という大きな枠組みではなく、都市の自律、ブランド力で都市は淘汰されていく。実際に、トリエンナーレなど土地に密着し、その土地にしかないインスタレーションを作るイベントなどが各地で行われている。渋谷、パルコが流行の最先端という状況になり「地域」がメッカになった過去があるように、都市、地域にもまだまだ秘められた力がある。

そしてここで、観光業との密接な関係の構築によるさらなる発展が見込まれる。地域の活性化に伴い、旅行業界の新たなマーケットが出現するはずであり、その情報発信とインフラ整備により都市と都市の関係性が一層深まる。