国境の南、太陽の西 (講談社文庫) 国境の南、太陽の西 村上春樹講談社
村上春樹の作品は、これまでいくつも読んできた。他にここまでの速度で読み切れる作品群はない。その度に、小説家としての表面的な才能に驚かされる。外面的には華やかな生活、内面的な共感を容易く得る心象風景。深みのある言葉一つ一つ、その連続は一気に読破してしまう魔力を持っていた。しかしそれ以上に、村上春樹の作品というのは自分に対してある種の戒めを持っている。この小説が正しいわけではない。しかし、自分の弱さ、特に恋愛の中でのぼくの虚弱体質が露呈してしまう。それは自分自身の想像力のなさなのかもしれない。周りの人、さらに世界中の人には普通のことであるのかもしれない。しかしそれは明らかな自分の欠損を提示する。心の問題であり内面形成に置ける一つの障害であるともいえるこれは、ごく野暮にいってしまうと強さ。「わかる」という認識自体に、ぼくのリアリティはないのかもしれない。単純に登場人物が自然のように心得ている「やり方」うんぬんの表層的なものではなく、日常を過ごす土台になっている価値観全般において。