横浜建築都市学、鈴木伸治氏
講演者の鈴木氏は近代建築などの保存を専門とする都市計画学者。今回は新しい仕事の一部として関わった黄金町についてのレクチャー。インターン時に黄金町バザールについて取材にいったが、バザール開催時、その後のことは特に情報がなかったのでこれからの展望も含めて聞くことができた。
黄金町は第二次世界大戦前までは水運を利用した問屋の集積だった。大岡川を利用してわき水を外国まで運ぶ都市の突端のような場所だ。関東大震災では市街地の80%が壊滅、33,000人が死亡した。横浜大空襲では街を含めて全焼、その後米軍に接収されるという歴史をもつ。売春宿など、戦後の負の部分を一挙に引き受けたような地区でもある。戦後には売春宿のオーナーもほとんどが外国人になり、産業構造も確立している。また、阪神大震災の教訓から行われた京浜急行高架の補強で、100軒の売春宿が向かい側の建物への移動を促して、最盛期では250軒を越えるまでに拡大した。
このような負の歴史をもった街をどう再生するか。
再生の方向性は、地元、企業、行政、警察の一体化、土地をできる限り購入するなどの勢力的な整理を根幹とする。
最初に行われたのが、BankART桜荘のプロジェクトだ。2007年には売春宿の経営者が逮捕されるなどまだ過去の歴史を払拭できずにいたこの地域の住民は、自分の街への自信度が低かった。最近でもこの桜荘の窓がドアを壊されているなどまだ理解されていない部分もある。しかし黄金町バザールでは80日間で延べ10万人が訪れた。地域の人にも知られていない魅力を知ってもらうイベント性も必要だ。
ここではNPO黄金町エリアマネージメントセンターを設立、活動している。この団体は文化芸術スタジオの管理を行うことで活動資源の一部を確保して、地域住民の活動を支えることを目的としている。しかし課題も多くある。再売春化の危険性を孕み、不動産の流動化を妨げる勢力もある。
エリアマネージメントとしての再生の根幹は都市ブランディングの創設によりネガティブなイメージを払拭すること、アートを通してコミュニティ自体が変わる事が重要である。しかし、鈴木氏は再開発に頼らないコンバージョン型地域再生に新たな都市デザインの可能性を見る。土地を買い占めて新しく作らないといけない大開発ではなく、あるものを利用してどう展開していくか。そこには美しいだけでなく景観から空間、イベントをプロデュースする必要があると語る。

後半の対談では、Y-GSA教授で建築家、飯田善彦氏とすることにより地域に介入する職能としての立場が明確になってきた。
飯田氏は実際に日ノ出町スタジオで学生とともにイベントの構築に参加した。その参加を頼んだ鈴木氏の立場はプロデューサーである。両者の職能と地域の人。ここにまちのなかの温度差がある。まちを活性化したい人とそこに住む人たち。これは非日常と日常の差だ。地域の人の日常に入り込まなければ、こういったものは成功はしないだろう。生活のなかの「祭」としてプロデュースして、日常に溶け込み、地域の人びとがそれに喚起されて日常的な水準を上げる、そういうアプローチが必要になる。
鈴木氏の行ったアンケートの結果で、学生がはいることが住民の支持を得ているという。ここに、日常と非日常の、生活に入り込む上で利害を被らない立場の必要性が示されている。私も学生であるからよくわかるが、仕事ではなく学生としてこのようなことに参加する目的はそれ自体にあり、利益を得るためではない。しかし、ボランティアや学生組織などの問題は組織化された企業と比べて各々の意志が一定にされておらず統制が困難であることが問題でもある。さらにモチベーションの維持も難しい。だからといって企業が入ればいいということでもなく、社会起業家的な存在が必要になっている。それが、鈴木氏、飯田氏、をはじめ学を中心とした人たちの可能性になっているとも言える。