建築・権力・記憶―ナチズムとその周辺 建築・権力・記憶―ナチズムとその周辺/ヴィンフリートネルディンガー, Winfried Nerdinger, 海老澤模奈人 鹿島出版会
一応の読了。従来の建築史的観点からは欠落していた、イデオロギー、時代情勢の観点を組み込んだナチズム建築を中心にした建築史書。物質的観点からのみでは建築の評価は不十分であるとする著者の明確な意志が本編を通して語られている。
ナチズムという民主主義とは相反する理念によって生み出される絶対的権力、そしてそれに従属するべく利用される建築。建築、芸術など普遍的価値、平等な価値というものを前提とした価値はその空間性、芸術性、そしてそこから得られる深い感慨、感動を国家、社会という実体のあるようでないものへと昇華される単なる道具になる。そこにはイデオロギーなしでは語りえない見てみぬことを許さない建築史があった。それは今の現状においても形、表象、意味は変われど存在する欲望という非人間的なイデオロギーの根本があるように感じる。