・隈研吾展 Studies in Organic @ギャラリー間

大きな木の劇場模型があった。その模型は二つに分けられた断面模型だったが、その断面から客席の方を覗くと、閉塞感のない「線」だけで構成された空間があった。しかしその模型を外から見ると大きなボリュームであって、収縮できるところまでさせたかのような物質感のあふれる建築だった。この建築は「グラナダ・パフォーミング・センター」。コンセプトグラフィックをみると、なるほど、ハニカム構造な上に,焦点がぼくの見た場所に収束している。ここから見れば,ハニカムの妻側と言っていいのか,面は全て線になる。ホールの機能をもつこの建築は、柱梁の存在しない,ハニカム構造そのものの建築といってよい。しかし、一つの焦点に向かって空間の方向性を収斂させることで、舞台に立ったアーティストの出す音,雰囲気,そして熱気はストレートに客席に届く.建築は外側から見た時の存在感にも関わらず,ここでは最適な環境を与える「消えた存在」になるのだ。
隈研吾は、展覧会と同時に刊行された図録を兼ねた書籍「Studies in Organic」の中で、21世紀の関係性によって生き長らえる生物観と近代建築家のメタファーとした生物観の差異を述べた上でこう書いている。「「見せる/消す」という行為も、「入る/出る」という行為も、そこで問題とされているのは、結局のところ、身体と環境との関係性であり、建築を媒介とする関係性である。」と。
現在の隈の思考における到達点として発表されたこの有機的建築の思考は、80年代の「形態と物質」、90年代の「建築の消去」、そして00年代における二項対立の崩壊の系譜を辿る。その中で職人,孔、スリット,反復などの具体的方法論を用いながら,建築を思考してきた歴史がこの展覧会では提示されている。
関係性を担保する建築。この方法論こそが、ぼくが「グラナダ」の模型を覗いたときに感じたある種の爽快感をもたらしたのだろう。