・医学と芸術展 @森美術館

この展覧会は芸術は科学的根拠に則って行われるべきだとするレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画から始まる。今ほど医学が発展していない時代においても、遺伝子情報の解析が進んだ現代においても、「人間」という未知の物体への興味は同様だったようだ。この展覧会ではそのような芸術の域ともいえるほどの詳細な人間の絵画や、「生」の象徴でもある胎児、妊婦の解剖彫刻なども並ぶ。そのための医術の道具なども当時はただ医療のために存在した器具が、現代において芸術として扱われる。その生死を扱うことの「強度」が認識できる。そして、ぼくが最も見入ってしまった作品に、ヴァルター・シュルスの写真があった。
それは数人の人物の生前と死後の顔写真を並べて展示したものだった。「生前と死後」と書いてしまうとあっけないくらいだが、大きなパネルに映し出された「生きる」ということを前面に押し出すような表情は輝き、そして何かを見据えたように「私は生きている」ということを痛烈に観客に提示する。そしてそれに対する死後の表情の安らかさ。人は死ぬと朽ちるのではない、ただ眠るのだということを思い知らされた。