・江戸川区「景観シンポジウム」

定員750名の席がほぼ満席の中、江戸川FMアナウンサーの挨拶からシンポジウムは始まった。

一つ目のプログラムは多田市長の挨拶。国の行政である景観法の策定から、各自治体は景観に対する様々な画策を行っている。江戸川区は第一回の表彰に一之江親水公園で受賞している。
江戸川区の景観計画策定、それに連動したWSの結果、第五葛西小学校の子どもたちの発表があることが告げられた。

次の挨拶は実行委員長でもあり東京農業大学の教授でもある進士五十八氏。風景をつくるとは、自然も歴史も文化も生業もある。江戸川区における風景への実践へは、18の団体が参画している。一昔前で言えば、風景とは建築の人ががんばるとかそういうことだった。しかし江戸川区は緑と水の額縁を今までの行政でつくってきており、建築規制等はもう終了している。つまり土台はできている。その一歩先をいくための発会式だと思っていると述べた。

副委員長の紹介を経て「えどがわ百景」の説明に。863点の応募があり、120点が受賞した。
その表彰式を終え景観まちづくりWSについてのプログラムへ。
職員と区民のWSであり、「まちあるき」「区民主体のプランつくり」を主体とした活動であるという。

景観計画は大景観区を行政が、小景観区で区民が活動する風景自体を景観と定義。景観計画策定委員会、景観まちづくりWS、えどがわ百景委員会を三軸としている。
策定委員会では骨子などから一つの目的に向けて議論。子ども達の笑い声が響くことなどいまそこにあるものが景観であるという定義が生まれた。
また、「まちあるき」などを行い、景観資源を発掘、景観拠点を選定、景観マップ作成なども行った。その具体的な活動とこれからの提案が次から発表される5つの活動テーマである。

まずAグループからの発表。「中川防潮堤緑化の試み」について。
「もったいない」をテーマに利用されていないテラスを潤いのあるテラスへと作り替える。緑地帯60㎝の部分を緑化することで殺風景で無駄な堤防部分を改める。
河川には魚類ではボラ、蟹がおり、もっと川を身近に感じる事に重点を置く。具体的な他の提案は、草花を植えてみること、テラスの清掃活動などが挙げられる。この成果として、緑化により大景観軸のスケールメリットを活かせること、「健康の道」というように散歩道としての活用を想定している。
これからの手順としては区からの整備許可とボランティア募集だという。

次に「水辺の新しい景観の提案」。身近な水路でカヌー、カヤックを楽しむことを提案する。この問題意識の発端は川に入って楽しむ姿がないこと、水の中の風景を見られないことが挙げられる。水鳥だけが占有。水鳥のきもちになって地上を見上げてみたいという思いもある。
江戸川区には水辺スポットのメッカとして荒川レガッタの実績があるため、この延長としてやっていきたいという。

次にBグループ、「あじさい街道つくり」。緑は共有財産であるという認識を基にしている。船堀グリーンロードを拠点に、華を植えて清潔感のある街並にすることを目標とする。
挿し木つくりを考案。苗木はトイレットペーパーの芯を利用する。行政に認められ、支援をもらっている
さらに看板を設置することによりボランティアの共感を得る事を目指す。実行のための活動としては協力者の募集、協力者へのプレゼントがある。プレゼントは熟年者が対象。

Bグループの二番手、「鹿骨の風景を守る」。
鹿骨」という地名は神のお伴として歩いていた神鹿が鹿骨3丁目で倒れたことに由来する。昭和45年には花園町に地名を変える動きがあったが、地名をまもるために神輿をやり始めるなど文化をまもっていく動きがそこから始まった。
それを連続したものと捉え、街の連帯感を生み出すことを目標とする。「鹿の道」などのネーミング、緑化などが具体的活動。

Cグループは「河原道の発掘」。
河原村へと通ずる道だった元佐倉道は、入り組んだ街路であり、先がみえないわくわく感のようなものがある。それを歴史と文化のシンボルロードにしたいという提案。石畳の再現を行い、自然な道標を設置する。

Dグループの発表は徒歩の駅ネットワーク構想。
たくさんの資源をどう活かしていくかを考える。地域の良さや歴史を知ることをコンセプトに。歩くネットワーク、徒歩の駅をつくる。水辺、コミュニティの拠点、百景などの交差点に徒歩の駅をつくる。

Eグループは子どもと遊ぶプロジェクト。「えどがわの森」をつくり、子どもの遊べる場所を増やす大構想だ。
6000平米の中に9つの遊び場をつくる。この遊び場を限りなく増殖する。
竹林のゾーン、冒険のゾーン、竹のジャングルジムなどのレジャーのためのゾーンや蓮根のゾーンといった蓮根をつくる場所も提案。また、土のゾーンやせせらぎ、水辺のゾーン、木のゾーン、田んぼのゾーンもある。

次のプログラムは五葛西小学校の子どもたちによる演劇。会場に展示されている子ども達が考えた理想都市の提案、アウトプットの過程を再現。

最後のプログラムは進士氏と多田区長の対談。
えどがわ百景の写真やその応募数から江戸川が好きだという気持が伝わってくる、と区長。他にはないいい意味で特別なまちだと進士氏はいう。
区長は、景色がいいというのではなく、そこに人がいて、何か楽しいとか心打たれるというのが本当の景観で、人ともにあるのが景観。そういう意味でいい写真がある。
進士氏は昔の百景と比較してこう言う。「昔からある風景は静かな美しい風景、絵はがきになる風景。しかしこれからの風景というのは絵はがきにならなくてもいいし生きている風景だ」と。
江戸川区の公園は子どもが多くてすごいですねと言われると区長。葛西総合レクリエーション公園は公園ランキング一位。施設をつくっても人がいなければ施設は生きて来ない。これが景観。

区長は40年かけてやってきた非常に貴重な額があって、それは景観に対する遺産である。それをどう活用していくか。都内では公園面積756haで第一位。二位三位を足しても足りない。小学校一行で1haであるから、とてつもない広さである。
進士氏も、華の街コンクール最優秀賞は江戸川の緑のインフラが整備されているからこそこういうことができると賞賛している。江戸川区世論調査魅力トップは60%が公園が多いということだったと区長。

以上のように「えどがわ百景」を起点に、「風景」の意味を問うていく、そしてその過程をつくりだしていく活動までを射程に捉えたシンポジウムであった。多田氏、進士氏が言うように、江戸川区は前任の中里喜一区長時代に高度経済成長とともにインフラ関係の整備は根底のコミュニティつくりのところから既に成熟を見据えた動きになっている。福祉関係の助成、私立の保育園、幼稚園、また、親水公園、コミュニティ会館の微分的配置などがそうだ。都市のインフラを文字通り区民の生活のための基盤として捉えた大きな財産である。
そして多田区長はその意志を確実に引き継ぎ、その上でどうやっていけば区民の豊かさを育むことができるかという問題に対峙している。今回の「景観」という主題は、子ども、歴史等を焦点に置きながら、インフラを拡張しよりよい環境、そしてその上で暮らす人びとの活気を映す意味で「景観」であった。