魔王 (講談社文庫) 魔王/伊坂幸太郎 講談社
当たり前だが『魔王』には、登場人物がいる。
主人公はといえば、不思議な能力を持つ兄と後々に能力に気づく弟だろう。その周りに数人、登場人物だ。もちろん、この人物たちが物語を構成して行くのだが、それはどこか、他人行儀というか上の空というか、キャラクター自体は大して重要でない。というのは、登場人物たちは全て周辺で、最も根幹に位置するのは文字通り形のない何かなのだ。それが魔王なのかはわからない。しかし、登場人物たちの発言や行動によって浮き彫りにされてくるものは、現代の問題点を如実に表している。
自律性のない政治、マスコミ。偏見、差別、世界情勢など。この作者の作品は初めて読むのだが、最初に「変な能力をもつ人が出てくるファンタジーか」と思った事は途中から変化していた。といっても本当に特殊能力かはわからないほどの確信だからそこで判断した私が間違っていた。