クリチバの街づくり/中瀬 勲
大阪府立大学を経て、当時の先輩などとの交流からブラジルに深い理解のある、中瀬勲氏の講演会。現在は兵庫県人と自然の博物館副館長である。
講演会は氏が自ら撮影した写真とネットから取ってきたテキストと写真を使って基本的なデータから私的な観光的観点まで説明された。
ブラジル、パラナ州クリチバ。ここの都市計画は世界一だといわれることもあるが、その都市システムをつくる市長は都市計画の出身だ。まず都市計画の専門家が市長に当選していること自体が少し驚きであるが、やはり、建築/都市の職能というのは幅広い。
そのシステムのコンセプトは、都市、緑地というハードをふんだんに使い、そこから段階的につなぐ事で福祉、教育、就労までつなぐ統合的な都市計画である。

具体的な例として、バスのシステムがある。クリチバのバス停は日本の吹きさらしの棒が一本立っているだけのものではない。チューブ状の小さな建物がバス停になっており、地下鉄のようにバスがその中に入る駅のようなものになっている。バスは3両連結になっており、270人収容可能。日本のバスと電車の中間のような車両である。ここでもう一つ特徴的なのは日本のようにバスの中で運賃を払うのではなく、チューブの中で支払いは終えるため、乗り降りがスムーズだという事。また、このチューブは道路のレベルより高いところにチューブのフロアレベルがあり、車椅子用のスロープは設置されていない。ここで、チューブの中で切符を売る人と車椅子の人のために段差を解消するための人をつける事により、就労まで結びつけている。しかも、ちゃんと働く時間が決まっており、昼夜などで交代が行われる事により市民のワークシェアリングが適度に行われている。何でもバリアフリー、オートメーション化してしまい、就労の機会を逃す人があまりいないという日本にはないメリットがある。日本では状況が違うので適用できる解ではないが。

この都市の統合的な都市計画を背後から支えているのが環境である。緑地が多いクリチバであるが、世界の環境問題がまだ表面化していない時期からクリチバは環境に対する取り組みを行い、そこで教育などに結びつけられていたという。
1982年には若手建築家を起用し環境自由大学を設立、環境に関する教育を行っている。公務員には年に一度環境教育を行っており、公園などの治安を守る警察官も子どもを守りながらも、樹木など環境に関する知識を子どもに伝えるという役割を担っている。また、植物園では犯罪を犯した青少年を少年院に入れるのでなく植物の手入れをさせることにより、青少年の労働学習をしている。
緑が多くあればそれだけでいいというような理由でなく、環境、緑地を能動的に教育や都市の構築に組み込んでいく姿勢は、見習うべきところがある。それにより全てがビジネスとして成立しているような都市でなく、税金で公共的に都市を投資としてつくっていくのは、もう日本にはできないことだろう。

他にもゴミでないゴミ運動や青少年のための24時間通りの建設は、都市が市民を圧迫し無理矢理まちをつくっていくのではなく、物事をある程度寛容に見る事によって柔軟な社会をつくっている。そこで環境、教育、就労、福祉そして都市計画/まちづくりが並列の関係として成立するこの都市は、環境と発展の一見二項対立の概念を融和する。