いつも定期的に購読している雑誌を一通り購入して眺めていると、金融危機以後の世界のパラダイムシフトが完全に移行期に入っている事がわかる。『クーリエ・ジャポン』では観光という経済的行為にショッピングやステータス表象ではないものが求められている。特にアートや建築というある種の公共性を帯びた精神的豊かさを全面に感じる事のできる「何をしにいくか」というよりも「何を感じ取るか」ということに重点が置かれている。そしてその一つ下の次元であるデザインの現場でも、日常、非日常を支えるインフラ構築のための循環型社会像の具現化が構想されているようだ。『日経アーキテクチュア』で特集されていた建築家による名著の選書特集では、黒川紀章氏の共生の思想などの書籍が選ばれている事もその象徴として捉えられる。さらにその思想だけでなく、黒川氏の政治家になるために建築界を飛び出して一般的社会に介入しようとした横串的な考え方も現在必要とされるものの一つなのであろう。
 『AXIS』の中村勇吾氏への巻頭インタビューも興味深い。ナポリタンやミートソースを開発した技術の第一集団ではなく、そのおこぼれをもらいながら一人ニヤニヤしながらタラコスパゲティをつくるという立場が、楽しめる層の裾野が広いし、そういう懐の深さを感じられるものを作りたいという発言には時代を見据えた視線が感じられる。背伸びせずに、等身大で楽しむことの必要性がいまの社会にはある。
 そしてその背伸びした業種の破綻が表面化してきたのが、出版界である。『クーリエ』でも、『東洋経済』でも見られるような、物流の流れのシフトや高級的なコンテンツを扱う「だけ」のはずが農民が高級官僚と渡り合えることを可能にしてきた幻覚がいま剥がれてきている。理論と実践の大きな乖離が、出版界でも露になっているのである。


AXIS ( アクシス ) 2009年 08月号 [雑誌]

AXIS ( アクシス ) 2009年 08月号 [雑誌]

週刊 東洋経済 2009年 8/29号 [雑誌]

週刊 東洋経済 2009年 8/29号 [雑誌]

COURRiER Japon ( クーリエ ジャポン ) 2009年 09月号 [雑誌]

COURRiER Japon ( クーリエ ジャポン ) 2009年 09月号 [雑誌]