近代化遺産(富岡製糸場)の見方調べ方

レクチャー4 近代化遺産(富岡製糸場)の見方調べ方/国立博物館参事 清水慶一
2日目のレクチャーはソルティア工場というイギリスのレンガ工場の紹介から始まった。
世界遺産に認定されているこの建物は、19世紀にリャマの毛で織物をする模範工場として機能していた。氏がこの建物を冒頭に紹介したのは、レンガ建造物を保存しているかという富岡製糸場の保存を範疇にいれてだった。レクチャーのタイトルになっているように、産業遺産を見る場合や活用を考える場合に、実際的に注意しなければいけないことなどを講義していただいた。
膨大な床面積をもつこの工場は、現在自由な使い方をしており、空間をレンタルなどして使用されている。ここでの論点はあくまでも、保存であり、物である。
アメリカの東側は日本やロスやカリフォルニアなどアメリカ西海岸と全く違い、地震という根本的に違う性質がある。この事例のソルティアでは地震がなく、アメリカやここのように地震がない場所では耐震ではなく第一に防災的な観点が考慮される。工場内部には鋳鉄の柱が立ち、防火床がそこに載っているだけであり、日本では崩壊してしまうような構造である。
また、価値観の違いにより活用の仕方が変わることもある。日本では考えられない、赤と緑の塗装を文化財の壁に施してしまうようなこともある。これは、ヨーロッパにおいてはレンガ造の建造物は至る所に無数にあるのに対して、日本では稀少価値が高いということもある。
次にスライドに表れたのは横須賀基地内の200tクレーン。
建築側の人に多いのが、この全体像にばかり捕われる、ということだ。産業遺産においての主役はあくまで「機能」であり、逆に機械側の人はこの機能ばかりに注目してしまうことがある。ここで建築側の人は、機能にも注目しつつ、全体にも目をやることが求められる。
次にM34年に建設された工場においての実測の実践的な話。手で計ることの重要性、レーザー測量はあくまでも緊急時のものであることを述べる。
最後に示された例は,富岡製糸場と横須賀製鐵所.富岡製糸場の元となった木骨煉瓦造の建物であるが,製鐵所では造船のためにドックと別に陸上に存在していた.直に移植された木骨煉瓦造の建築は,フランスにも一部の鉄道施設にしか存在しないという.木骨煉瓦造にした理由は諸説存在するが,1,鋳鉄をフランスから持ち込むのにはコストがかかりすぎる,2,動力軸を通すための太い柱が必要になる,3,見栄えがいいというのが代表的である.
話は富岡製糸場に移り,設計者に対して施工者である穂高純重(漢字が定かではない)の評価について.設計者は図面を出し作れというだけでいいものの,横須賀で大工の棟梁をしていた施工者にとっては初めての連続で,研究に研究を重ねたという.
改修において,RC,S造の耐震解析では木骨煉瓦造は解析できない.一般的な方法では必要以上の補強をせざるを得なく,1スパンでも実物をつくって解析することが望まれる.また,煉瓦造は社寺建築と違い芯と芯で測量は行わない.ブリックワークにおいては必要とする面積に対して自分の立っている位置から壁を立てるからである.
ここからは今まで認定された重要文化財について.
初の重要文化財群馬県碓氷峠鉄道施設である.他にも,見ておいたいいものとして京都の琵琶湖疎水,小樽運河を挙げる.最後の小樽運河について,氏の所属していた東大の村松研でこの保存に関わったときのことを語る.結局,物自体は半分残すということで決着がついたが,地域振興には役立っていないという.ただ見るだけで他へ行ってしまうのだ.開発,保存にはただ保存すればいいというわけではなく,方向性が重要になる.

建物の見方・しらべ方―近代産業遺産

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