・ノウハウ本ではないノウハウ本

かばんはハンカチの上に置きなさい―トップ営業がやっている小さなルール かばんはハンカチの上に置きなさい―トップ営業がやっている小さなルール/川田修 ダイヤモンド社
いかにもといった営業ノウハウがつまった本だった。仕事に少し行き詰まったからといってこんなタイトルの本を手に取ってしまった。しかしそんな思いは極度の失礼であった。
確かに,この本には営業ノウハウ、特に「保険」という重い商品を売る営業のノウハウが詰まっている。しかし、すらすらと読めてしまう内容の最終的な着地点は、営業というその俗的でありがちな職業の一番のおもしろさ、可能性を示唆するものだ。特に、「保険」と似てはいないが人にとって大きな買い物でありかつなくてはならないものであるぼくの「建築」ということに照らし合わせられることが大きかった。
「営業とは、お客様と物語をつくる仕事である」。最終章の見出しにはこう書いてある。なんでもそうじゃないか、そういう反論もあるだろう。人生はある意味で物語なのだから。
しかし、建築学科をでたぼくが俗世間に入り込み、しかも学科ではめったに寄り付かれない「営業」という職ではこれができるとぼくは信じていた。資本主義社会の要素としてしか存在しないかもしれないとふいに思ったこともあるが、この本を読んでからぼくがやっていたのが建築だっただけでこの本の中での「物語」は今だからこそ必要な建築におけるその建築での小さな物語と一致した。
本書で、「ニードセールス」という言葉が出てくる。それは客にとって本当に必要なものなのか、という文脈で使用される。この「ニードセールス」という言葉が「セールス」と一致しない時点で営業という職種が蔑まされる原因でもあると思う。
どうすれば資本主義社会とそれだけでない幸せを両立できるのか。それを教えられた気がする。