・WORKSHOP研究 1-0 谷内田章夫氏の集合住宅1

先日、「WORKSHOP研究」と評するエントリを記述したが、実は今日の予定が前提である。それはふとしたことから一員である谷内田章夫氏の作品を拝見できることになっていたからである。

谷内田章夫氏はデザイナーズマンションの第一人者と言われる。
マンション、アパートと呼ばれる類いの集合住宅は、その商品性の程度により一般化された形態が先行して売買されてきた。一般の個人住宅と違い、事業性の高さが大きな成立要因であるからだ。集まって住むとは元来平面的な広がりの中での地面を介したつながりであった。しかし人口の集約、個人の自立を背景に積層化として開発され、いまや当たり前のビルディングタイプとなっている。今回のエントリは、建築的な操作や構成というよりも、その違いが以前のものと違うことでどのような状況になっているかを概説したい。

時期にして2000年頃である。一般向けの建築情報誌である「Casa BRUTUS」は谷内田氏の特集を組む。内容は前述したデザイナーズマンションの先駆けとなるきっかけともなった、もしくは認識されていた事実を踏まえると容易に想像がつく。それ以前にも「Casa」では建築家の集合住宅特集は組まれている。この「Casa」の発行自体、一般社会に「建築」「デザイン」といった認識を流行としてブランディングするための試みでもあるわけであるが、デザインの流行は多様化が叫ばれるのと並行であることからわかるように、メディアの発達から個人的メディアにより「多様化した」のでなく多様である事が「認識された」ことでもあるようにも思われる。ここに誰よりも早く集合住宅という平準化が前提の「商品」として頭角を表したのが谷内田氏であるといえる。

今回、ぼくが拝見させていただいた集合住宅は、竣工年が90年代から近年竣工したものまで様々であったが、断面はもちろんのこと、平面形態も通常のものとは違う。ここでいう通常のものとはnLDKで表現される形式である。谷内田氏のつくる集合住宅のユニットは、ロフトや床下収納といった断面的操作が往々に含まれるため、通常使用として算出される床面積以上の利用可能性がある。
通常は駅からの近さなどの利便性、ペット可能や収納の多さなどで賃料が決定する。基本はnLDKである。それは市場との整合、または相対から選択されるが、これらのユニットはその付加価値ともいうべき要素が通常の決定要素を上回り賃料など定量的決定が不可能になっている。数々のデザイナーズ的住宅が一般の住宅よりかけ離れた値段になっていることはこのことと無関係ではないだろう。資本主義において、定量的ではないというのは、主観的であると同義であると言えるからだ。
このような集合住宅は客がつきにくいという点で「土地活用」というカテゴリーには不向きだという見方もある。そもそも集合住宅自体は、人に土地を貸す一つの手段として建築を媒介にすることで税金の対策であったり収入の補助ということにもなる。この税金の仕組みこそが集合住宅を乱立させる要因の一つであることも明らかではある。
つまり、「住むこと」からアパートの類いの集合住宅は端を発したわけではなく、資本主義化における「土地の成果物の一つ」として発信点がある以上、現時点での定量的決定要素と付加価値の関係性は崩れることがない。
しかし谷内田氏の集合住宅は定量的決定要素を無視したものではなく、ある範囲内においてその軸を収めながら付加価値を増大することに成功した結果として入居者という成果を出す。そこでは賃料に見合うものとして価値が認められているという事実だけが残る。
このような事実の過程を建築的、経済的に探るのが本文章群の目的でもある。