ケンチクのウンチク @UPLINK
講演者はゼネコンやデベロッパーに所属して組織として資本主義社会の中枢に乗る人とアトリエ系、そして厳密にいえば建設業界とは違う場所で活動している人。この不況下、大企業などの大きな組織は充電期間として捉えるべきであろう。しかし、逆に大組織でない個人に近い組織は大きくなるチャンスでもある。私が今回の講演会に期待していたのは資本主義という大きなレールに乗らない問題を解決する機動性をもった職能の模索だった。

そういう目でみると、きょうの出演者のうち竹中工務店の宮下信顕氏と三井不動産の篠原徹也氏だけでなく独立した活動をしている2名にも自然と興味がわいた。
一人はアトリエ系でnoiz architectsを共同主宰する豊田啓介氏。東大、安藤忠雄事務所を経てコロンビア大学に入学、maxやmayaを中心とした設計方法を駆使するShoP architectsにてアメリカでの実務を経験している。いまも国内よりも海外での仕事の方が割合は高いという。日本における建設技術と海外のでは環境として歴然の差があるという。職人の腕に期待できる良好な環境がある日本に比べて、海外ではデジタルによって施工精度を担保する。設計と施工の橋渡しをする役目をコンピュータが負っている。逆に日本ではできないことが海外で可能になっている、ということだろうか。職人が減っているいま、職人の手に頼らずにものをつくることも教育の一環としてあるべきなのかもしれない。
どこででも強烈なインパクトを与えることのできるようなファッションで登場したのは、ヴィヴィアン佐藤氏。「非建築家」という肩書きは一見何の意味もないような印象を受けるが、建築学科卒であり、元磯崎アトリエ勤務。建築をものとものの関係を構築するものとして位置づけ、一般的な建築ではないが建築である行為を続けていることがこの肩書きの由来だ。よくわかるわけではないがプレゼンでは芸術に傾倒した建築学科の学生がつくるようなオブジェを数点出していた。コンセプチュアルなものもあるが、社会的には少数派とされている人たちののためにその人にあった物をつくる態度には見習うべきところがある。

ゼネコンの設計部の宮下氏と三井不動産の篠原氏の話も現状を把握する上でかなり興味深い内容だった。
大規模な設計部の特徴として、大企業の社員とのつながりやコストのことなど建築の過程に少し踏み入ることができることがあるという。コストなど設計施工が分離されている状況では言えないことがあっても設計部と作業所の連携で何がいくらかわかる。そして会社別にビルディングタイプの得意な分野や大企業のプロ化を計ることができる。ゼネコン、と一言でいって都市に大きな物をつくる立場にあるといえど、内状はやはりBtoBの事業モデル。社会を動かす大きな原動力に対して建築をつくるという仕事を楽しんでいるようだ。

ゼネコンの開発部から三井不動産に転職した篠原氏からは、デベロッパーの内状だけでなく転職という難しさもお話をうかがえた。先に容積率の決定、それから外観をつくりだす、建築に対する見識はないのがデベロッパーの実状であることが実感できた。元ゼネコンの開発部に所属していたこともあり、そこからの転職には私が考えていたほど簡単なものでもなく、時間と労力を使うらしい。デベロッパーからみた大手ゼネコン5社の色も少し話してくれた。