砦の家/日置拓人

CELLULOID JAMとはある種対照的な、左官工事を主とした住宅。両親のための家であるこの住宅は、日置氏や所員の方も施工に関わっている。その作業のおかげでとても痩せたという。
「砦」とは、学生運動など常に社会に対して批評的であった父のこれからを応援する、という意味もこめられている。高齢者になり、小さく、弱くなってしまうのでなく、外部の環境、社会にいつまでも刺激され、元気でいてほしいという息子ならではの願いだ。
居心地のいい空間とは、どれだけ設計者が職人と接するかが重要であり、そこから生まれるきめ細やかなデザインが使う人にとってもよいと日置氏は語る。なるほど、ここには細部まで考え抜かれ、自らの手で作り出されたディテールと、独特の時間軸があるように思える。そこにはある種の他律的要因は極限まで抑えられ、ものと人が接する場所としての力を感じる。
自然に対して敏感に変化し得るであろうこの住宅の外壁には、活き活きとした感触がある。建ったときが終わりではない、独自の時間軸とともに、より建築化され、住人とともに歳を重ねていく住宅のあるべき姿が示されている。