・群馬県富岡

富岡に到着してから少し時間があったので、駅から距離のあるコンビニに歩くついでに、街の構造を少し見て歩く。
群馬県の南西部に位置している富岡市は、人口5万5千人弱の地方都市である。しかし、昨今問題になっているショッピングモールなどの影響は少ないらしく、朝になると駅前の商店街では店を開きはじめ、中高生の登校が始まって元気な姿を見せる。コンビニでも店員が常連の客なのか、「おはよう」と声をかける姿がみられた。私たちが行ったのはちょうど秋祭であったようで、よりよい地域のコミュニティが形成されているようだ。
ところどころに空地が一定の割合で見られるのは人口減少の影響であろうか。しかしそこに市民が備え付けたのだろう、ベンチと灰皿をおき、手づくりで休憩所が作られている。
大きな道に面した公共空間を市民自体がつくりだしているのもこの街の特徴といえる。蔵や現代的な住宅、木造の年期の入った住宅が入り交じり、充分な敷地を確保できているこの街では、全体的に住宅は道から数メートルセットバックして配置され、半公共的な空間が道幅を拡幅させているようにも感じる。また、1つの土地に複数の住宅が並び、路地空間を構成しているような独特の配置をしているのも大きな特徴であった。インターチェンジから幹線道路、バイパスを経て車一台しか通れない道路、そして寺の裏の小径や敷地内の「地」の空間。観光施設や郵便局など市民の身近に存在する公共施設と、地域と都市をつなぐグラデーションをもつこの街には、これから地域の活性化に必要な「住民の力」を支えるには充分な都市施設を備えている。

また、至る所に「世界遺産」の名が書かれ、名物をつくりだそうとしている街の表情は、「観光」という1つの価値をつくり出そうとしている一方で、富岡製糸場との乖離がみられるように思う。「街」というカテゴリーではコミュニティの活気があり、パブリックスペースの拡充としてコミュニティとその外側のパブリックをつなぐポテンシャルも存在する。しかし、ある住民に製糸場に行ったことがあるかと訊ねると、苦笑いで「近いから一応、ある」という返答が返って来た。もちろん、住民全体に聞いた訳でもないからここで何かを判断するのは短絡的ではあるが、明治の時代に官営として当時の全住民から製糸場の同意書を得たとはいえ、現代を生き、これからこの富岡を支えていく人びとにどこまでその価値は伝えられているのだろうか。
私たちがセミナーに来た日にも、製糸場は多くの観光客で賑わっていた。しかし、その門構えはあまりにも閉鎖的であり、周囲を巡る高さのある刑務所のような印象すらある。これから街と一体となって街づくり、観光周知をしていこうとするのなら、この塀は街に対しての距離となり、大きな隔たりをつくってしまうのではないだろうか。地域の活性化、さらには これからの観光資源となるには、何か建築や名所があるだけでは力不足であり、地域の人びとが「自分たちの声」で話し、街に尊厳を確立することが最も近道であると思う。