・研究対象に食われる、とは

藤森照信氏は,商業建築の研究を語る前に,研究者には研究したものが巣食う,というようなことを書いている.つまり,氏が興味を持っているバラック装飾社の今和次郎についての商業的,風俗的な研究をするのは心してかかれ,というようなことだ.ぼくは当初,そんなことも気にせず修士論文の作成を行っていたのだが,その言葉がふと思い出されることがあった.それを気にして自分の思考を少し見てみると,なるほど,商業建築についてクライアントとデザイナーの関係を綴った八束はじめ氏などの文献を読んでいると,建築がもっとも建築らしかった時代であるモダニズム建築についての考察が薄まる.
空間が商品化してしまう時代になって久しいが,それすらも受け付けない,つまり資本に回収されない自律性を保つというのは本当に困難なことだ.「最終的には無に消え去ってしまう」という日本人独特の観念が反事実的になり,生活が土地と定着する時代は来るのだろうか.